先月発生した能登半島地震。中心地となった輪島市に深見地区という小さな町があるのをご存知だろうか。海辺にある人口80名ほどの深見地区は、地震発生後、完全なる陸の孤島となった。他地区へ向かうには海岸沿いの幹線道路と山を抜ける道の二つがあるのだが、地震による大規模な土砂崩れで二つともふさがれてしまったのである。当初、深見地区にその場で待機し救助を待つよう指示した輪島市に対し、市の対策は遅いと判断し、漁船を利用して大半の住民を避難所へ移動させたのが深見区の区長である。その一方、力のある男性を選んで地区に残した区長は、彼らと共に復旧作業にあたった。そして、重機等を使って土砂を取り除き、地震発生当日のうちに自力で道路を開通させたのである。
深見地区という町は、昔から協働作業による特産物づくりを行っており、助け合いの精神が住民の間に根強くあるそうだ。区長はそのようなコミュニティを維持するために普段から住民への目配りを欠かさないと言う。深見には住民同士の強いつながりが今でも残っているのだとテレビ取材者に対し穏やかながら誇らしげに語る区長の表情が印象的だった。住民同士のつながりが維持されていたからこそ、災害時に強い結束力が発揮されたのであろう。
組織においてリーダーシップを語る時、マネージャーシップと比較されることがある。企業において業務遂行に勤しむのがマネージャーシップであり、変革のために長期目標を掲げ、戦略や戦術を策定するのがリーダーシップである。マネージャーは組織の現状を維持するために行動し、個人に標準的な作業を遂行するよう働きかける。一方、リーダーは組織の現状を打破するために行動し、個人が変化を起こすよう導く。どちらがよいというものではなく、環境が安定している場合はマネージャーシップが、環境変化が激しい場合はリーダーシップが適していると言われているものの、市場での競争が激しい近年においては、リーダーシップが圧倒的に重視されているといっても過言ではないだろう。しかし、深見地区において緊急時に住民が強く結束したのは、深見区長がマネージャーシップとリーダーシップの両方を備えていたからではないだろうか。コミュニティを維持するためにマネージャーシップを働かせながら、震災という緊急事態に強いリーダーシップを発揮する深見区長にリーダーの一つの理想的な姿を感じた。
現在、深見地区に限らず輪島市ではまだまだ震災の生々しい傷跡が残っている。能登地方の早期復興を心からお祈り申し上げたい。 |