まもなく私が昨年より担当していた組織改革プロジェクトが終わりを告げようとしている。クライアント企業は中堅メーカーで、プロジェクトメンバーとともにワークショップを重ね今後進むべき方向性を見定めた上で、めざすべき方向性と現実とのギャップから課題を整理し、その課題を解決する施策を模索してきた。その結果、組織構造を抜本的に変革することが必要ということになったのである。もうすぐ新組織体制に関する社内説明会を予定している。そこで、私は、社内説明会の資料に社員への明確なメッセージを載せるようプロジェクトリーダーであり次期社長となる取締役に依頼した。組織が大きく変貌を遂げる中で社員が一つの目標に向けて進むには、社員一人ひとりがトップマネジメントのメッセージをしっかり受けとめることが重要だからである。その重要性を私はある人から教わった。
その人は、大手メーカーの役員を10年ほど勤め、退任後に亡き父親が創業した中小メーカーを継いだ。前職に就いていた頃から父親が創業した会社ということもあり、助言を呈するなど多少のかかわりは持っていたが、社員にとっては創業者の息子が突然やってきたようなものである。そこで、その人が最初に取り組んだことは、経営理念を明確にして社員に繰り返し自分の思いを伝えることであった。そのために毎日現場を歩き、社員と接点をもつように心掛けたという。そうこうするうちに、現場の人たちが経営理念を自ら工場の壁に掲げるようになったそうだ。実は、その人とは私の父親である。正直なところ、3万人超の従業員を抱える企業で指揮をとっていた父にとって従業員30人ほどの会社での采配はギャップが大きいのではないかと思い、私は父に尋ねたことがある。その時返ってきた言葉は「まず、その組織が現在どのレベルにあるのかを見極め、そのレベルに合った目標をそこにいる社員に合った接し方を通して伝えることで組織としての力を徐々に引き上げることが重要なのであって、そういう意味では規模は関係ない。」というものであった。父は年始の挨拶というものを今も非常に重視している。毎年お正月になると、社員へ何を伝えるべきか、目を閉じ何時間もじっくり考え込む父の姿に私はトップマネジメントのメッセージの重みを肌で感じ学んでいた気がする。 |