ktsメンバーで食事をする時、ワインを選ぶのは私の役目である。先日、選択ミスをしてしまった。社長には「このワイン、あまり美味しくないよ。」と言われるし、取締役にも「高山さん、これで評価半減だな。」と冗談を言われる始末だ。ワイン自体が悪いわけではなかった。ある程度、メンバーの好みを知っているのだが、皆の好みに合ったワインではなかったのだ。大失敗である。
私がソムリエの資格を取ったのは、前職に就いていた頃、実務に生かすことができるからだった。ソムリエは、客の好みを聞きつつ、料理に合ったワインを提供するのが仕事である。そのソムリエになるための試験は、知識を問う一次試験とブラインドテイスティングとサービス実技レベルを問う二次試験に分かれている。一次試験、二次試験ともに、多くの用語を覚え、たくさんのワインを飲むことが重要だ。例えば、ぶどうの品種を勉強しても実際の味がわからなければ知識は広がらないし、逆に、ワインを飲んで品種、産地、ヴィンテージを答えるにも知識がなくては当てようがない。机上の学習、実物のワイン、どちらが欠けても難しい。
また、ソムリエの資格を取ったからといって全てのワインがわかるわけではない。世界中に把握しきれないほど多種多様なワインがあり、品種や産地、作り手の個性によって風味が異なる。さらに、同じ品種、産地、作り手であっても、その年の天候、つまり環境の変化によっても風味は変わる。ただ、次第に、基本的な知識を生かせば、知らないワインでもある程度の予測がつくようになる。それはソムリエになった後、周りの意見を聞きながらさらに多くのワインを飲み、実務で知識を生かしていくからである。
これは、ワインの世界に限ったことだろうか。企業をワインと見立てれば、組織という品種、市場という産地、経営者という作り手によって生み出される価値は様々である。さらに外部環境の変化も大きく影響する。また、マネジメントの世界でも知識と実務この2つは切っても切り離せないものである。企業で舵をとろうと思えば、基本知識は大事だが、理論だけでは立ち行かない。先日、クライアント企業の発注管理に頭を悩ませていた時、つくづく理論は理論でしかないという事とともに、基本知識があるからこそ企業の特性にあわせた応用に辿り着ける事を思い知る機会があった。マネジメントスキルや経営知識を学ぶにも、実際のビジネスを感じながらの学習と、学習後の実務における勉強があってこそ意味を成してくるのではないだろうか。
今、私はワインに触れる機会が減り、ソムリエとしての知識、実務感覚は陳腐化しつつある。生きた知識を日常で使っていないと判断に迷ってしまうのだ。つまり、ワインリストを見ても選ぶのに時間がかかるようになる。挙句の果てに選択すべきワインを誤ってしまう。選択ミスをした食事の席では、結構勉強したんだけどなあと思いながら外したワインのラベルを恨めしく見るしかなかった。
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